クラシックVSポピュラー

クラシック音楽とポピュラー音楽

 クラシック音楽とポピュラー音楽(いわゆるポップスですね)・・・それぞれに対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?ポップスしか知らない人からすると、クラシック音楽は「何だか難しそうで、とっつきづらいもの」というイメージがあるかも知れません。逆にバリバリクラシックの人からすると、ポップスは「テキトーな音楽で、クラシックの勉強には必要ない」という見方をする人もいるでしょう。

それぞれの違い

 ではそれぞれにはどのような違いがあるのでしょうか。

音楽との関わり方

 まず音楽との関り方には、大きく分けて「演奏」「創作」「鑑賞」の3つがあります。

 クラシック音楽をたしなむ人の中では、一般の人が楽しむ鑑賞の分野を除くと「演奏家」人口が非常に多く、昔から現代にかけての「作曲家」が作った楽曲を演奏するのが演奏家です。演奏は「その作曲家らしさ、その作品らしさ」を表現することが大事になっていて、自分勝手な演奏は認められない世界です。
 一方ポピュラーでは、歌が入っている「歌もの」の楽曲が圧倒的に多いですが、演奏者が自分で曲を作ることがだいぶ一般的になりました。例えばシンガーソングライターなんかは良い例です。なぜ「演奏家兼作曲家」が多いかと言えば、ポピュラー音楽が「手軽に楽しめる音楽」として広まったことによって、分かりやすく聴きやすい楽曲が好まれていて、誰でも簡単に音楽作りができるからです。特にこれと言った決まりや法則は無く「なんか良い」曲が残っていく、何でもアリの世界です。
 クラシック音楽は「なんか良い」だけでは安易で、クラシックにおける「素晴らしい曲」「素晴らしい演奏」には、学術的な裏づけや、もっと明確で繊細な評価基準も存在します。そしてクラシックは音楽自体が繊細に複雑にできているものが多いです。中には「これ、間違った音を弾いてんじゃないの?」と思うような複雑で難解な曲もあります。中には「ピアノの前に座って、4分33秒間何もしない」ような曲もありますが(笑)このような曲は分かりやすく芸術的だったり哲学的と言えます。

芸術音楽と商業音楽

 クラシックは芸術音楽ポップスは商業音楽、という考え方があります。「芸術は分かりづらいもの」というイメージもあるかと思いますが、「芸術的/アーティスティック」な作品は「他人に媚びずに自分のやりたいものを貫き通す創作・表現スタイル」と言えます。その反対は「商業的/ビジネスチック」で、「作品が良く売れることを追及された創作・表現スタイル」です。
 大きくこの2つのジャンルで分けると、大前提として「クラシックは芸術音楽、ポップスは商業音楽」ということは確かです。クラシック側の人間からすると、この点において「クラシックは高尚なもの」というプライドがあったりします。
 ですが、それぞれのジャンルの音楽を覗いてみるとそれぞれに色々な作品があって、クラシックにもビジネスチックな作品もあれば、ポップスにもアーティスティックな作品はたくさんあります。ですので「どんな音楽でもいかようにでも創作・表現できる」ということです。

音楽の細かさ

 音楽には「音楽の諸要素」と呼ばれるものがあり(西洋音楽の場合ですが)、①タイム/拍子、②テンポ/速度、③キー/調、④リズム /律動、⑤メロディー/旋律、⑥ハーモニー/和音、⑦トーン/音色、⑧ダイナミクス/強弱、⑨アーティキュレーション/表情の付け方、⑩フレージング/音楽の流れ・区切り、などがありますが、ポピュラー音楽では、特にダイナミクスやアーティキュレーションなどはおざなりに、つまりテキトーに扱われている実態があります。

ポピュラーは奏者任せ

 それは楽譜に顕著に現れているでしょう。例えば歌の曲を簡単にアレンジした楽譜なんかでは、「ff」や「pp」などの強弱記号や、スラーやアクセントなどのアーティキュレーション記号はほとんど見られません。そして、楽譜にはコード(和音)記号が記されていて、自由なアレンジができるようになっています。

クラシックはルール縛り

 クラシックでは、作曲家がこれらひとつひとつの音符や記号を丁寧に楽譜に書きおこし、それぞれの楽器、声種に一番ふさわしいように曲を作ります。演奏家はこれに従って、その作曲者が伝えたいこと・表現したいことを、自分の感性とのバランスを取りながら演奏します。

カラクリ

 ポップスではテンポもほとんど揺らさず、音量は聴きやすくするためにマイクやアンプ、コンプレッサー(小さい音量の部分は上げて、大きな部分の音量は下げる機械です)を使って一定に均すことが普通です。そもそも「f」や「p」は単なる音量以上に「音楽の表情」を表す意味あいを含んでいますし、これらの部分が意識されにくいポップスの音楽は、素人が演奏すると「ただ音符をなぞっているだけ」「その音が鳴っていればさえ良い」というように聴こえることさえあります。そしてアーティキュレーションなんかは、ミュージシャンが「ノリ」や「グルーブ」とか言って直感的に付けていくのが普通なので、これらの要素は楽譜に書きおこされることがありません。そのため音楽作りの際には意識されないことが多く「なんでもアリ」な部分も相まって、クラシックの世界から「テキトーな音楽」だと言われる一因となっています。「ポップスの人間にはクラシックは理解できない、演奏できない」という見方もこういったところに起因しているのでしょう。クラシックを勉強した人の音楽はPOPSで仕事をしてもやはり繊細で緻密に感じます。もちろんそれは人によるので一概には言えませんが、繊細なものを緻密に勉強しただけあって、そういう風に感じられることが多いです。

ポップスは「簡単」なのか?

 ではポップスは「簡単」なんでしょうか?…到底そんなことはなくて、クラシックよりポップスの方がシビアな面があります。細かいことが書いて無い・決まりが無いということは、「良い曲が作れるか」「上手く歌えるか・上手く弾けるか」なんかは、制作者・演奏者のセンスがダイレクトに問われるということです。クラシックは楽譜通りに・ルール通りにやっていれば、その面である程度形の整った音楽になりやすいです。それから「アドリブ」に関しても、クラシックの奏者でアドリブやコードアレンジができる人は結構限られています。ポップスやジャズではアドリブ演奏するのは普通のことですからね。そこにインスピレーション・クリエティビティが無いと出来ないことです。「クラシック奏者は楽譜が無いと何もできない」とポップスの現場では良く嘆かれることです。

全部「音楽」

 しかし、音楽は「楽しめるものである」というところはどんな音楽にも共通する部分です。どんな音楽にも元々「表情」はあって、さらにこれらの「音楽の諸要素」を意識して創作・表現することで、ジャンルに限らずもっと色々な表情を持った音楽にすることができます。クラシックより緻密なポップスを作る姿勢ももちろん可能なわけです。ここでは、どんな音楽でもこの「音楽の諸要素」を重視し、クラシックに用いるような繊細なアプローチの仕方を取り入れて指導しています。(例えばポップスの楽譜に細かく強弱やアーティキュレーションを付けて歌う・演奏するなど)そのことで、クラシックにもポピュラーにもどんな音楽にも通じる音楽表現の繊細さと奥の深さを理解し、自分なりに音楽を表現することを身につけてくださればと思っています:)