~天才・秀才・センス・スキル~

言葉の整理・考察

 能力に関係する色々な言葉を整理・考察してみました。誰にでも備わっている初歩的なものから順番に並べました。

1「感覚」

視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚=五感や、温覚・冷覚・痛覚による刺激の受信。
 使用例は「寒さで指先の感覚がない」など。この段階では「感覚があったか無かったか・信号をキャッチしたかどうか」の問題で、それについてどういう感情を持ったかは関係ない。音楽で言えば「誰かの歌い方が変わったのを聴いて、まずその変化に気が付けるかどうか」。
②広い意味では2「感性」や6「センス」と同義で使われる。

2「感性(感受性)」

外界の刺激を深く感じ取る能力=「感受性」。「感覚」に伴う感情・衝動・欲望=「感性」。誰かの歌い方が変わったことに対して、その変化をなるべく多く・細かく・深く感じることができるかどうか、そしてその変化に対して「良い悪い・好き嫌い」の感情の動きがあるかどうか。寒さで指先の感覚が無くなったあとに付随する「寒くて辛い」などの感情の部分。「辛い…」は一般的な感性、寒さで亡くなった人達に思いを馳せ「辛かったろうに…」は感傷的な感性、指先の感覚が無くなって「自分じゃないみたいで面白い」は独特な感性と言うように、感じ方に個性が生ずる。使用例は「感性が鋭い・感受性が豊か」など。

▼「感性」「感受性」「センス」の違い

 「感受性」は特に受信力だけを指し、「感性」は発信力を含むニュアンスで捉えられる場合もあるが、一般的には発信力は6「センス」以降に含まれるニュアンスとなる。音楽で段階を追うと、感受性で他人の作品を感じ取り、感性で自分の作品での表現欲求を持ち、センスで想像力、スキルで創造力を発揮するような流れとなる。

▼「感性」「理性」「知性」の違い

後述の「理性」「知性」との比較を簡単にすると、「感性」は「感」が持つ言葉の意味の通り、「心の赴くままに」という感情の働きであるのに対し、「理/知」は「頭を働かせた」思考の働き
となる。

3「理性」

 道理によって物事を判断する心の働き。善悪・真偽を正しく判断して考える能力。理性の反対は感性。感性に任せて感情的に歌うと音程やリズムは実際にズレやすくなるので、理性を働かせて歌う必要がある。

4「知性」

 「答えの無い問い」に対してその問いを問い続ける能力。音楽表現や歌詞表現などは厳密な正解はないので、どういう表現にするのかを追い求めるには知性が必要となる。

5「知能」

 「答えの有る問い」に対して早く正しい答えを見出す能力。発声学や音楽理論などは答えがあり、身体の構造を覚えたりコードを覚えたりするには知能が必要となる。


6「センス」

 「センス/Sence」は直訳すれば「感覚」となるが、一般的に受信力も送信力も含めた総合的なものとして扱われている。つまり「感覚」と「感性(感受性)」もこの「センス」に内包されているニュアンスで使われる。音楽では細かく捉えれば「音感・リズム感」もセンスだし、「発声」もセンスが関わってくるように、色々な部分で感覚を切り離すことはできない分野である。特にセンスが現れ、問題とされるのは「音楽表現・歌詞表現(=歌い方)」と「作詞作曲における作品の良し悪し」となる。

7「スキル」

 「スキル/Skill」の直訳は「技術」。感覚・感性・センスなど目に見えないものを形作って外に表現する技術。例えば歌詞の「悲しい」を表現するとする。歌で表現するなら、悲しそうに聴こえさせるためにウィスパー発声や低めの音程感で歌うなど、声帯などの発声器官で何らかの動作をすることになる。作曲で表現するには、悲しそうに聴こえるコード進行を選んだり、楽器の組み合わせによるサウンドで表現したりする。何かを表現するには実際に何かの作業が必要になり、それに伴って必要なビブラートやハイトーンなどの演奏技術だけでなく、音楽理論の知識や身体能力も大きくまとめてスキルと言える。

8「素質」

 「歌向きの身体/ピアノ向きの身体」など、素材・表現媒体に対する着眼点の意味合いが強い。実際には似た言葉の「気質」からか「センス」の意味も含んで使われる。

9「能力」

 一般論としては「成し遂げる力」の意味があるので、その側面では「スキル」の意味合いが強い。芸術分野ではスキルもセンスもまとめた総合的な適性として使われることが多い。

10「才能」

 能力の上位版と言える。能力の意味に加えて「生まれつき」「優れた・巧みな」を含み、芸術分野では「個性・感性」の側面もニュアンスとして含まれる形で使われる。

11「天才」

 「先天的/生まれ付きハイセンス」と言うことができる。例えば天才ギタリストであっても、ギターの弾き方を知らずにギタリストになることはできない。スキルは後天的に身に付けるものであるが、その時天才は「その楽器を扱うセンスと音楽センス」でもって凡人には身に付けられないスキルを手にすることになる。天才的・天才型と呼ばれる人のほとんどは「感覚派」であり、特に幼少期は何も気にしなくても凡人より秀でた状態であることが多い。いわば「取扱説明書なしで直感的に難しい組み立てをすることができる」タイプ。

12「秀才」

 「後天的/磨き上げてハイセンス」。本来一般論としては「勉強できる」の意味。天才が感覚メインで成し遂げていることを、理論構築を使ってトップレベルになっているのが秀才と言える。はじめは天才より時間がかかるが、取扱説明書を使いながら(自分で書きながら)難しい組み立てをすることができ、難しい用語の意味が理解できるので、ある面では天才よりも秀でることがある。更に、天才は組みたてが一度崩れるとどう崩れたのかが分からないので路頭に迷うこともあるが、秀才は説明書通りにもう一度組み立て直しができるためにムラのないパフォーマンスができる傾向がある。

13「奇才・鬼才・異才」

 これらは「天才・秀才」を王道な表現スタイルとした前提で、「アウトロー」の意味合いで良く使われる。「天才・秀才」よりは特別感のあるニュアンスとなっている。本来この3つの意味に差異はないが、「奇怪・奇妙」「鬼のような存在感」「異界・異彩」など、それぞれの漢字のイメージに当てはまるものが使用される。

センスとスキルの関係

センス=感覚・感性
「心で感じたり・脳内で生じるもの」上手い歌い方ができるか・歌い方で個性が出せるか、作詞作曲ができるか
スキル=技術・身体
「センスを外に出すためのアイテム」歌で言えば歌用の声が出るかどうか、ピアノで言えば指が動くかどうか

音楽をやるにはどちらも必要となる。

「卵と鶏」問題。どちらが親かというと「センス」の方。センスがあればスキルも作りやすい傾向にある。スキルは結局センスを元に形作るもの。センスが無いのにスキルだけあるというケースは「レッスンでハイトーンが出るようになったが音楽的でないために効果的に聴こえない」などに見られる。

センスの持ち方の順序・段階

①受信センス=聴くセンス/音楽に含まれる表情を感じ取って楽しめるかどうか。
→「感受性が豊か」ということ。
②発信センス=歌うセンス/それを歌・音楽という形にして自分から外に出せるかどうか。→「上手い=表情のある歌い方ができるかどうか」→「外に向かって解放する気質があるかどうか」
③創造センス=作るセンス/自分で音楽の中から表情を探し出す・生み出せるかどうか
→「歌い方を自分で見つけて考えれるかどうか」→「作詞作曲ができるかどうか」

▼センスとスキルの現れ方

 歌について「無意識な」状態の生徒さんに現れるセンスとスキルの関係が、どんな能力になるかをまとめます。

【ケース1】センス有―スキル有
 センスもスキルもある場合、一般的に皆んなが「上手い」と言える状態にある。この状態の人は、リズムや音程は問題なく、色々な歌い方もある程度できるので、基礎の次の段階である「表現」を取り組む。表現とは簡単に言えば「メロディーや歌詞がこうだから、それっぽく聴こえるように歌い方を工夫する」ということ。例えば「悲しい」という歌詞を「悲しく聴こえるように音色暗めのウィスパーで歌う」ようにする。これがある程度声で形に出来て、その時内なるセンスがあればさえ、自然と「悲しい」感情は湧き出てくる。「あ~それっぽく自然に聴こえますね!」という反応を直ぐ返すのが、センスとスキルを一定レベルで持っている人の大体のリアクションになる。

【ケース2】センス有―スキル無
 内なるセンスが確かにあってもそれを形にするスキルが無いと、「伝えたいことを言葉にしていない」のと一緒で他人に伝わることはない。表現の例で言えば「悲しい」をウィスパーする段階で発声スキルが追いつかないために表現の作業まで辿り着くことができない状態。表現の前に息を漏らすボイトレをする必要が出てくる。この状態の人は、表現の具体例を手本で聴かせれば、その変化と音楽的な良さは理解することができる。

【ケース3】センス無―スキル有
 形を作れるスキルがあってもセンスが乏しいと、必然性が無く・歌わされてるように聴こえる。表現の例で言うと、ウィスパーボイスはコントロールして自由に出せるが、それが音楽的に良いということを理解することが出来ない状態である。自分で楽しめていないので、聴いてる方にもつまらない、という印象を与えやすい。

 指導によって歌の形がしっかり形が作れたとしても、それに感動できる・楽しめる感覚=センスがない場合が【ケース3】である。好み・個性の問題もあるので全て感じれる必要はないが、「これは別に・・・」が多いと結局「感受性が狭い・弱い」ということになる。
①「職業歌手」を目指すならどんな音楽性でも万能にこなすために多くの感覚を持つことが求められる。「リズム感も音感も良く、色々なジャンルを楽しめて歌いこなせる」ことが歌手としての価値を上げると思っていて良い。
②「アーティスト」を目指すならどこかの感覚が突出すればそれが個性となって現れる。「リズム感がめちゃくちゃ良いけどピッチ感は独特である」など、そういったアンバランスさが個性となる。

→感覚の数は多いに越したことはないが、「全部の感覚が平均的だと個性が薄くなる/器用貧乏」の傾向が出てくるため、職業歌手でも何らかの感覚は強くはみ出させて個性を出した方が良いと言える。

 それから、そもそも音楽が好きで耳がまず音楽性に傾く「ミュージック耳」の人と、まず歌詞に耳が傾く「リリック耳」の人と、この点においてもセンスの特性が分かれて現れる。ミュージック耳の人の歌は「音楽にハマっているので一聴上手いが、歌詞が伝わらない」、リリック耳の人の歌は「エモーショナルだが、リズムや音程が甘い」傾向が良く見られる。